NETWORKING&STUDY SESSION|交流会&勉強会

交流会&勉強会|澎湃館を中心に呉の産業遺産を考える交流会&勉強会

 鉄の記憶プロジェクトは、造船・造兵・製鋼などの技術が集積した、呉の産業の歴史、その歴史資源の活用や国内外の人々とのネットワーク、その連携による交流と知見の共有を目指しています。 2025年度にプロジェクトが任意団体としてスタートし、この初年度には日本遺産MONTHの関連事業として日本遺産に登録されている工場のスケッチ会、講演会、パネル展示などを実施しました。 これまでに実施した事業のほか、より身近に親しみやすく、呉の産業の歴史に興味を持っていただけるイベントとして、交流会&勉強会を開催しました。 

 2026年3月25日(水)から2日間にわたり、彭湃館を主会場に「澎湃館を中心に呉の産業遺産を考える交流会&勉強会」を実施しました。今回の交流会&勉強会は、株式会社大之木ダイモ(敬称略)の協力を得て実施しました。また、貴重な産業遺産を保有する企業のみなさまのご厚意により、貴重な見学機会をいただきました。 

 鎮守府、呉海軍工廠の重要な遺構をめぐるコースを参加者と共に歩きました。2日間全体としては、盛りだくさんのメニューを、建築学や産業史、映像関係者、教育文化や地域連携に携わる専門家のみなさまと共にめぐり意見交換をおこない知見を深めました。 

 実施概要

日時 2026年3月25日(水) 
9:15-10:50 澎湃館見学 
12:00-12:45 ダイクレ第二工場見学 
13:30-15:00 勉強会 「澎湃館と周辺に残る旧呉海軍工廠の建物群」
講師:広島工業大学准教授 光井周平先生                
「加藤友三郎 一本のろうそくが世界を照らす」講師:株式会社大之木ダイモ代表取締役 大之木小兵衛     旧呉鎮守府司令長官庁舎(入船山記念館)第2和室 
15:00-17:00 周辺エリア自由見学 
17:30-19:00 懇親会(中通り・フローリストなかむらにて)

 2026年3月26日(木) 10:00-12:00 ジャパンマリンユナイテッド呉事業所見学 

*午後は自由見学として、本庄水源地、江田島海軍兵学校を見学しました。 

参加者 21名 主催 鉄の記憶プロジェクト 協力 株式会社大之木ダイモ


開催の趣旨

 澎湃館は、呉の歴史を物語る建築として重要な存在です。地域の学びや交流拠点としての可能性を内包している場所でもあります。日本遺産に登録された構成文化財でもある、この歴史的建造物に刻まれた産業の記憶、地域の記憶を手がかりに、さらにその周辺に点在する歴史的遺構についても学び、呉の歴史文化・産業遺産への理解を深めることを目的としました。 ここから未来の教育(歴史文化・産業・平和教育)へ繋ぐ、その道すじを探るため、建築学や産業史、映像関係者、教育文化や地域連携に携わる専門家が集い、今後の活用に向けた課題と可能性を共有する機会としました。

当日の様子

 澎湃館見学

現在は澎湃館という名称で株式会社大之木ダイモが運営するこの建物は「昭和町れんが倉庫群」のひとつとして、日本遺産の構成遺産として登録されています。 1900(明治33)年に建てられた旧海軍倉庫で、当時は魚雷倉庫などに利用されていたといわれます。2025年3月から大和ミュージアム(呉市海事博物館)のリュニューアル工事を機に、大和ミュージアムの仮展示室となり現在に至っています。*仮展示は2027年3月末まで継続。 倉庫1階の約120平方メートルを改修し公開が始まったのは2018年で、その際に澎湃館の名称でオープンしましたが、コロナ禍の影響で不定期な開館日時に限定されていました。大和ミュージアム仮展示室となってリスタートすると、この反響は大きく、年間を通じて多くの来館者が訪れるスポットとなっています。 当日はまず、澎湃館において建物の現況確認と見学をおこないました。 

ダイクレ第二工場

 呉は1889(明治22)年に鎮守府が開庁して以降、海軍の拠点都市として多くの近代建築群を形成しました。中でも、1903(明治36)年に竣工した造兵部第九工場(現在のダイクレ第二工場)は、それらの近代建築群の中でも最大規模、かつ意匠性に富む建造物でした。  日本遺産の構成文化財として、正式名称はダイクレ第二工場亜鉛メッキ工場(旧呉海軍工廠砲熕部精密兵器工場)として登録されています。竣工当時から工場の用途は変遷し、造兵部第九工場は1937(昭和12)年に旧呉海軍工廠砲熕部精密兵器工場と改称。用途変更となり戦後に引き継がれ、戦後ダイクレが継承し、現在も稼働する工場建築として、レンガ外装、花崗岩装飾、三連切妻の正面意匠が特徴的な威容を保っています。

 勉強会  澎湃館と周辺に残る旧呉海軍工廠の建物群

 懇親会

 勉強会の後には懇親会を行い、より自由な雰囲気のなかで交流を深めました。さまざまな専門分野を持つ参加者たちが、率直な所感や、それぞれが抱える実践上の課題、今後の連携の可能性についても自然に話題が広がり、分野を越えたつながりが生まれる時間となりました。
 歴史的建築の活用は、制度や保存技術のみで成立するものではなく、それを取り巻く人びとの関係のなかで支えられる側面を持っています。その意味で、懇親の場における対話もまた、本会の重要な構成要素であったといえます。建物を介して人が出会い、それぞれの経験や問題意識が交わることによって、将来の実践に向けた基盤が少しずつ形づくられていくことを実感する機会となりました。

JMU呉事業所見学

 当日共有された主な視点

 今回の交流会&勉強会を通じて、澎湃館をめぐっていくつかの重要な視点が浮かび上がりました。
第一に、澎湃館は保存すべき歴史的建築であると同時に、地域の学びや対話を育む場となりうることです。第二に、建築の保存活用を考えるためには、建築学、産業史、地域史、文化実践、教育活動など、複数の視点を重ねる必要があることです。第三に、建物の価値は、それ自体に内在する物理的・歴史的特質に加え、そこに関わる人びとの継続的な実践によって更新されていくということです。

今回の会は大規模なものではありませんでしたが、一つの場所を共に見つめ、考えを交わすことの意義がより明確に感じられました。

 今後に向けて

 今回の交流会&勉強会は、呉の産業遺産を考え、澎湃館や周辺の遺産、歴史、記憶、その保存活用を考えるうえでのひとつの出発点であったといえます。建物の価値を将来にわたって継承していくためには、調査研究、公開、対話、試行的な活用など、多様な取り組みを段階的かつ継続的に積み重ねていくことが求められます。
 今後も、本会で得られた視点やつながりを手がかりとしながら、その可能性を広げていきたいと考えています。歴史的建築を、地域の記憶を受け継ぐ場としてのみならず、現在と未来の実践を支える場として育てていくために、引き続き検討を重ねてまいります。

 謝辞

本会の実施にあたり、ご協力を賜りました皆様に心より御礼申し上げます。